今回は企業に勤めている以上避けられない業績考課、評価に関する話題です。
これは・・・日米で「捉え方に」大きく違いがあります。
日本のほぼエスカレーター式年功序列方式では、業績考課はほぼ形骸化している場面が多いですし、そもそも自分の業績のアピールや、その上司や人事部が評価を書きこむスペースも大してありません。多く企業は各課題に対しての、「困難度」「達成度」などを掛け合わせて点数が付けられるようなシステムが構築されていると思います。
現実にわたしが過去に在籍していた日本の部署(約100人いる部署)では、その評価表のA4 の紙をトランプの様にカード代わりに使って、まず従業員の「資格」ごとに山分けし、その点数順に一度並び替えます。その後、各マネージャーの点数の付け方の甘さ(そのマネージャーが付けている平均点などから)が考慮され、もう一度並び替えを行います。
それにより、その部署の同じ資格を持つ人たちの「順位」が決まります。そうすると事前に人事部からお達しのあった予算に合わせて、例えば、十人いるとしたら上から二人は「優秀」、真ん中六人は「普通」、下から二人は「イマイチ」の評価となり、次のボーナスの加算が変わるという方式です。現実にはこの「イマイチ」の下にはまだランクがあるのですが、「通常つけられない」とのことで、わたしの知っている限り10年間はこれが当てはまった人はいないようでした。
この査定は長い目で見たときに昇格や昇給に効いているのだとは思われますが、通常は「ボーナス査定」と言われ、半期に一度の次のボーナスの取り分をそれぞれいくつにするかを決めるもので、そういう意味ではやや「一過性」のものであります。全体的に「ドングリの背比べ」となるのが望ましい形です。それで長年かけて優劣が微妙につくくらいがいい塩梅とも考えられています。
それに対し、アメリカ企業のホワイトカラーでは現在の年俸(=契約金)の更改に直接かかわる「評価・査定」ですから皆真剣です。アメリカにも労働局で指針のあるマネージャー級とか、エンジニア初級、中級などのクラス分けがあり、その昇格段階で大きな昇給があるのが普通ですが、その昇格がなくてもその次の年の年俸がそれで決まってしまいます。
もちろんEmployment at will の原則で、仕事ができない人には十分その内容を説明した上で辞めてもらうことができるアメリカでは、その査定時に「非情な」査定を下さなければならない機会はどうしても増えます。
わたしを含めた多くの日本人駐在者は、アメリカに「管理者」として赴任する場合が多いので、ここがもっとも難しいところではないでしょうか。「グローバル・ビジネス」の項でも申し上げたように、赴任直後は英語もまともに話せない、聞こえない、アメリカでの仕事のやり方もイマイチよく分からない中で、まともな部下の評価をするのはとても難しいものがあります。
一般的に、日本人はなかなか予定通りに業務を進められない、納期を守らないアメリカ人全体をかなり低く評価する傾向があります。その中で、「実際に」「本当に」仕事ができない人もやはりいますから、それを正確に把握して、評価して、本人に指導して、それでもできないなら辞めてもらう、という手順を踏まなければなりません。
能力のある人を正当に評価し昇給させ、そうでない人は最悪の場合辞めてもらう、という「仕事」が管理者やリーダーに期待される「能力」ですから、それができない場合はその管理者も低く評価され、最悪の場合辞めさせられなければなりません。非常にバリエーションの多いアメリカ人を取捨選択しながらまとめていくというのは、人事部から割り当ててもらった従業員をもっとも効率よく使いこなすことが重要な日本とは違い、実はかなり日本人にとってストレスの多い仕事です。
そのためにアメリカでは、そのPerformance Evaluation 業績査定、が非常に重要なのです。わたしは長年やっていますからかなり慣れている方だと思いますが、通常一人の部下に対して、1時間はかけて評価を書き、1時間かけて面談します。慣れないうちは一人の部下に対して一日かけて評価を書き、面談の準備も事前に整え面談に臨むことが望ましいと思います。
もちろん、常日頃から(最低月に一度は)ワン・オー・ワンで業務のことや問題点について話し合うことも必要です。それによりフォーマルなPerformance Evaluationもやりやすくなります。
アメリカ人の部下たちから、「この人はきちんと自分を見て正当に公平に評価をしてくれている」という印象を絶対に持ってもらわなければなりません。直接本人に、優れている点とそうでない点も明確に伝え、良い点には感謝し、悪い点は指導をする、という当たり前のことを大企業の管理職はなかなか直接やらずに、遠回しに人事異動などで人事部にやってもらっているような気がします。
学校のような日本の企業と違い、アメリカ人も真剣ですから、自分のいる組織のなかだけで会社が成り立っていると思って、この業績査定の時は特に真剣に取り組んでいただきたいと思います。アメリカ人のその真剣さを、「あさましい」「いじきたない」「いやしい」などと思ってはいけないのです。
これができなければ、絶対にアメリカ人部下から信頼と尊敬を受けられません。部下からの信頼と尊敬なくして、本当のリーダーにはなれません。
もちろん社長でない限り、自分にも上司がいるのですから、自分のPerformance Reviewに対しては自分も「真剣に」取り組まなければならないのは当然のことですね。日本の親会社に守られているからという印象を持たれないようにしましょう!