わたしの「英語」講座用のテキストブックの中には、知的財産というにはほど遠い雑談とも言える内容が結構あります。英語講座やグローバル・ビジネス講座、アメリカ生活番外編に関してはお礼をいただいていたこともあり、序章を除き会員専用ページとなっておりますが、雑談部分においては抜粋して記事投稿していきたいと思います。
まず、はじめに「英語は日本語訳しない」の中の雑談です。
学問としての英語の専門家ではない私はこの件について断言することは出来ません。ただ、本書は読者を絞って欧米で仕事で活躍したい人向けなので、私の体験的にお奨めしております。
プロの通訳か翻訳者にならない限り日本語訳は必要ない、と私は考えているのですが、そういう意味では私は通訳する、翻訳するのは少し苦手です。英語の難解な文法構造なども、なぜそうなるのかを知りたい場合解説があるのはありがたい事もあります。ただ、日本語を覚える場合にそんな事を考えもしなかった様に、聞いている、使っているうちに自然にそうなっていくことが最も望ましいと思います。そのくらいの量の英語が目の前にあるからです。
日本語と英語では基本的に構造も文法も違えば言い回しも違います。日本語を思い付き英語に訳す、英語を読んで日本語に訳して理解する、というのはスピードの点で処理時間の問題もありますし、第一プロの通訳、翻訳者でない素人がその状況に合わせた翻訳をするのがかなり難しいからです。
レストランでウェイトレスに塩を下さいと頼んだら、日本語だと「少々お待ちくださいませ」ですが、英語だと「取りに行ってきます」です。「私に一秒下さい」の様な近い表現もありますが、それはかなりくだけた言い方です。
赴任時に所属長などに挨拶する時は、日本語では「お世話になります」ですが、英語だとそれに相当するしっくり来る言葉が無いとは言え「組織の一員になれて光栄です」とか「一緒に働く事を楽しみにしてます」などでしょうか。この様なセリフでも、日本語をまず思い付く必要がない、もしくは思い付いてはいけないことが分かると思います。
単語ひとつひとつとっても犬や猫などの単純名詞を除き日本語と英語で完全に対になるものはあまりないと言ってもいいでしょう。その単語の受け持つそもそもの定義の広さ・ふくらみが、似たような日本語の単語と一致しない為だと思います。英和辞書や和英辞書の著者の方々にはそのご苦労を察すれば、言語学者として本当に一生の仕事ではないかと思います。
その様な意味で、英語を不得手としている方がまずやるのは、言いたい日本語を思い付いて思い付かない英単語を和英辞書で調べて英語にすることですね。これは7割くらいの確率でかなり不自然な英語になり、2割くらいの確率でまったく意味の分からない英語になります。「お世話になります」などもっとも簡単な例でしょう。
昨今は使った事はないですが、Google翻訳や翻訳エンジンなどの能力が多いにあがりタイプすれば7割がたまあまあの英語になったりするのではないかと思います。ただ、それでは仕事になりません。1~2年後に仕事を日本でするのと同様のスピードで英語でやろうと思えば、英語は英語で考え、英語は英語のまま読む方が何と言っても効率的です。最初は英語的言語回路の様なものが無いのでしょうがありません、数ヶ月我慢の期間がありますからそこをじっと堪えて仕事している内に英語は英語のままで良い、むしろそれが正しいと言うことが分かるようになります。
日本語をまず考えると、下記の例のような名珍訳をしてしまいます。
私の家は広い。 = My house is so wide.
まだ11時です。 = It is still 11 o’clock.
wide=広い、という意味が確かにあるのでその様に訳してしまうのですね。ただ、wideは名詞にするとwidth=幅、という言葉ですから「(幅が)広い」という意味ですね。運よく、「私の家は大きい」と思いつけば My house is so big.と良い感じの英語になるのですが、日本語の場合は「広い」の方が確かに自然です。
still=まだ、という訳は確かに一般的ですが、stillは状況が変わらないことが前提の「まだ」ですので、時間と言う状況が変わらないはずのものには使えません。この様に言うと、11時で時間が止まっていることになるのです(笑)。11時でまだ早い、という意味で言うとすれば、It is “only” 11 o’clock. となります。
日系企業だけに、翻訳や通訳が必要になる事があります。その時も状況も把握しておらず専門知識の無い通訳の方が訳するとおかしなものになる事が往々にしてあります。私は通訳が苦手と申しましたが、実は最も的確な通訳として適しているのは、現在の話題に最も精通している人であるという点では、やや苦手だとは言え、こと仕事に関してはプロの通訳よりよっぽどマシな通訳をする場合が多いです。
これまで「マズい」翻訳のおかげで大問題になったことも数えたらキリがありません。アメリカ人もさすがに何が問題なのか分からないものですから、日本企業とのトラブルで私に仲裁を求めてくることがしばしばありました。特にお金の絡む交渉や打合せでの双方の認識が翻訳の所為で違ってしまうのは大変な問題です。双方の言い分が平行線であれば訴訟で解決するのが一般的ですが、単に言葉の問題だけでトラブルになっていることが「とても」多いので、その誤解を解けば双方歩み寄り解決に向かう事がほとんどです。
この日本語を考えないほうがよいという提唱にひとつだけ相反する事があるとすれば、日本人が間違いを起こしやすい「英語には敬語が無いから簡単」という考えです。日本語の「ですます調」や「尊敬語、謙譲語」や「人称の使い分け」 など大変気を使う文化、複雑な言語を操れるわけですから、英語でも状況や相手によって十分に相手を気遣い変化するのが当たり前です。話している間にアメリカ人を怒らせてしまう様な事も少し慣れて来たころによく起きることです。多くは言葉足らずで相手が失礼と感じる事が原因です。
会話のキャッチボールをする上で常にサービス精神を持ち、相手がこちらが言う事に耳を傾けてくれているかどうか、不快に感じてないかなどをキャッチしながら、時には日本語では使うであろう敬語や相手を気遣う様な言葉を思い出してそれに「相当する」言葉を発しなければならないと思います。単に面倒臭いし英語はビジネスライクだから、、、ではいけません。
下記の「ただちに間違いではない英語」で、アメリカ人を怒らせることもあります。本人は「 」内の日本語を言ったつもりですから、何故怒らせたか分からなかったようですが、、、、どちらの例も、礼を欠くという部分で間違った英語ということが言えます。
What are you doing? 「何をされているのですか?」
状況を聞くと、忙しそうに何かやっている米人に今何をしているのかを聞こうと声をかけたらしいのですが、その当人どうしは気心が知れているわけでもない間柄でありました。その米人が気性も荒く、気も短い人でしたから、忙しく働いていたところに「お前何やってんだよ?」と言われたと感じたのが原因です。
What is the matter with you? 「どうしたのですか?」
これはEメールで2~3日返事がもらえなかったので、催促するための再送時に最初につけたらしいのですが、、、このメールに対する返信は”I am fine.”だけで気を悪くしたのが明らかでした。前出と同じく、気心知れているわけでもなく、そもそもこれは友達同士などで使う「いったいどうしたんだよ」に近い表現ですので、前後の状況から判断すると、これは直ちに間違いということになると思います。
例としての日本語は、
「ちょっとお時間よろしいですか?」
「それは大変でしたね、今は大丈夫ですか?」
「**の問題に関して質問させてもらっても良いですか?」
などの様なちょっとした言葉が英語にした途端に足りない、言わない、省いてしまうと感じます。
この様な点に関してだけは、最初のうちだけは日本語で日本人にはどの様に言っていたか丁寧な自分を思い出して気を付ける様にして下さい。気をつけていればその内英語として出てきますし、気をつけなければ礼を欠いた会話を続ける事になります。
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反対に、日本人がアメリカ人に言われて、「不必要に」不快に思う言葉もあります。どちらも、英和辞書と和英辞書の訳語のおかげで非常に異なる印象を受ける翻訳になります。これはアメリカ人が日本人の上司を怒らせてしまって訳が分からず困っているような状態です。日本語にそのまま直すから違和感が出るのであって、訳すにしてもちょっと違ったものになると考えたほうがいい例です。
You don’t understand. 「あなたは理解していない。」または「あなたには分からない。」
アメリカ人に話の前後を聞くと、説明が足りず「これでは分かりませんね」くらいの意味しかなかったのですが、”I do understand!!!”と怒鳴られて面食らった、とのことでした。Understandについてはマズい英語の中でも触れましたが、日本人は「理解していない、分かっていない」、と言われるとほぼ「理解する能力(や知識)がない」という風に聞こえて大変不快に思うということがあります。また、日本語では目上の人に言うようなセリフでもないからでしょう。日本語でも相手の言っていることが良く分からなければ、「ちょっと意味がよく分からないんだけど」と言うように”I don’t understand”と言ってよいのですから。
同様に、
I can help you. 「助けてあげましょう。」
Help=助ける、はどうにも日本人は言われたくないセリフのようです。やはり、「助ける」と言うと、立場の強いものが弱いものを助ける、という印象になりますから、目下の人に言われたとなると急にムッとするなどということがあります。これは「お手伝いしましょう」ということですから、「お前の助けなどいらない!」などと誤解しないようにしましょう。お店に入ったときの (How) may I help you? はなんとなく「いらっしゃいませ」と感じるわけですから、その様に考えればよいと思います。
Do you want me to do it? 「それをおれにやって欲しいのか?」
これも直訳すると日本語では目下が目上に使う言い方ではないので違和感があるのですが、「私がやれということですよね?」という場合によく使われます。特にやりたくない理由があることはほとんどないので、やって欲しい場合は”Yes, please.”でいいのです。
また反対に、部下が上司に向かって、I want you to review my report. などとは多少失礼に当たりアメリカ人は言わないものです。
このような例は、日本語はかなり繊細な言語であり、上記の英語の後に付けた日本語訳では大変印象、ニュアンスの異なる誤訳ということが言えます。私が見ている限りこのようなコミュニケーション上の行き違いが大変多く発生しているように思います。日本は階級により口の利き方が変わる権威主義社会で、目上とか目下とかの意識が強すぎるのと、英単語の日本語訳の持つ印象が悪いというコンビネーションです。目下であろうが目上であろうが、常に相手に対する敬意を持ち、かつ対等に話すというのが鉄則です。
英語が苦手であるもうひとつの理由は、日本語が難しすぎるからなのかもしれません。