今回は少し穏やかでないサブジェクトです。
「粉飾」というと、企業がやる「粉飾決算」のような法律違反を思い浮かべますね。法律違反とはいわずもがな「犯罪」です。わたしはあの山一證券に友人が二人おりましたので、あの「粉飾」だとか「とばし」だとかのニュースは完全には他人ごとではなく、よく新聞や雑誌を読み、テレビを見て、どこの会社も大なり小なりのことをやっているのだなと思ったものでした。
思い起こせば、わたしが若いころは「物は言いよう」的な「粉飾報告」が横行している時代でした。悪い印象や間違った印象を与えないための良かれと思ってのアプローチととらえることもできますが、悪く言えば「印象操作」だったり「情報操作」、「虚偽の申告」とは言わないまでも「臭いものにはフタ」とか「成果の過大報告・失敗の過少申告」「不在者への責任転嫁」など、いろいろなものの「見えない化」を工夫し、「問題の顕在化」を徹底的に避けている風潮がありました。誰もが疑わない経済成長とバブル景気のあと、その崩壊とともに、「問題」があれば「責任の所在」を明確にしなければならず、それが特に恐ろしい時代だったのではないかと思います。
もちろん、人や部署によりますし、わたしの属していた会社や組織、部署が明らかな不正をしていたと言っているわけではありません。
このような事は「個人」でやると悪事として扱われるのですが、「組織」でやるとどういうわけか組織を守るための「正義」になってしまうことがあります。「いじめ」も大抵ひとりではやらず、仲間がいるとできるのですね。こどものころ、ビートたけしさんがよく言っていた「赤信号、みんなで渡れば怖くない」なんていう流行言葉もありました(笑)。こどもだったので、よく分かりませんでしたが、たけしさんが言っていたのはそういうことだったんですね(笑)。
そのような場合、「仲間意識」が大事なだけに、正直者は嫌われるし、正直者はバカを見る、という言葉もあるくらいですから、そのような組織の中では正直者は「裏切者」になり、本当のことを言うと皆がいっせいに「オマエは何を言うんだ」というような目でこちらを見る・・・そうです、毎日がシャンシャン集会になるように、空気を読んで顔色を窺っていなければならない独特の文化が生まれました。
極端な例としては、10件の課題があって期末に達成率を報告する場合に、10件とも70%あたりで頓挫していて「達成率0%」にもかかわらず、「達成率70%」と報告するようなことです。「あながちウソではない」ところがミソで、7個は達成していて未達成が3件あるのだな、という印象を受けますね。
このような単純な操作はなかなかないにしても、複雑怪奇な数字遊びをよく目にしました。達成率を計算するのではなく、組織としては報告する達成率がほぼ決められているので、数字を操作するわけですね。低い目標をいかに高く見せるかという技術も磨かれます。
虚飾や粉飾は部署ぐるみ、組織ぐるみ、そして最悪の場合会社ぐるみになってしまうと、不祥事どころか株主や社会に対しての犯罪行為になってしまいます。かの山一証券も、その粉飾を指導していた執行部の方々の逮捕という結果となりました。社員の方々も、会社を辞める覚悟なくして経営トップからの指示など断ることができようはずもありません。
しかし、このようなことがもっと小さな組織、部署の中で起きていませんか?問題が小さいうちに発見し、対策し、そのように組織をよくしていくためには「問題の見える化」と「問題の解決」が不可欠です。問題を隠すようになったらお終いなのです。
そこまで悪気がなく、おおげさな話ではなくとも、やはり問題が見えにくい場合は問題がないように思おう、問題に気付かないフリをしよう、という組織防衛本能が働いて問題を先送り、または無視してしまいます。これは、なかなか、いち社員、いち管理職では変えにくいのが25年前の実態でした。尊敬する先輩の技術者が、「サラリーマン生命をかけて」問題点を上申する姿もありましたが、当時としては時代錯誤というのでしょうか、今のように自動的に証拠がそろうような時代ではなかったわけですし、そのような勇気ある行動も、一石は投じるものの社内文化が変わったとまでいえるものにはならなかったと思います。
ところが、近年のIT化、IoT化というのは「問題の可視化」に大きく貢献しています。そういう意味では自動化され、リアルタイムで誰もが「管理指標」を見れるものは便利で貴重なシステムと言えますが、中にはそれが困るひとや部署、場合があるのも前述のとおりです。技術者,、管理者のわたしとしても、これを「不正防止」「虚飾禁止」という観点からも非常に効果的なツールであると考えています。
わたしの勤める製造業においても、IT化、IoT化は目覚ましい進展を遂げ、生産性の向上、問題点の可視化、解決に大きく貢献しています。今現在のコンピューターは人間よりは頭が悪く「忖度」や「斟酌」をしてくれないのでなんでもお構いなしに本当のことを言うし、何年も前のことまで覚えていてくれるので月日が経っても遡って本当のことが分かります。忖度AIシステムが開発されるようになるまでは・・・。
わたしでさえ、「あれ、こんな風になってる、まずいな」とまず自分の立場を心配するようなデータがリアルタイムで表示される時は、明日休もうと思っていたのに休めなくなった、などのジレンマがあります(笑)。が、しかしこのおかげで、貴重なリソースを粉飾に使うことなく、迷うことなくタイムリーに解決に使うことができるようになるのが大きなターニングポイントです。
そんな当たり前のこと・・・と言うかもしれませんが、平成の時代にどれだけの有名企業の不祥事があったでしょうか?90%が「粉飾」「虚飾」「偽装」「隠蔽」などの不正によるものですし、ほんの氷山の一角にすぎません。
令和になったこの時代、IT技術は、画期的、革新的な技術などを具現化させ、間違いをなくすツールであるだけではなく、「問題をつつみ隠さず早期に発見し、解決に向かわせる非常に大切なツール」なのです。