アメリカで仕事をするようになって、はや19年。
これは日本で働いている時のことですが、日本でよい経験をしたことがアメリカに来ても役に立ったというか、慣れない環境と言葉と人々に囲まれてもポジティブ志向でいられたおはなしです。
わたしは製造業で働く技術者ですが、製造部門にはかずかずの猛者がいらっしゃいます。昔ながらにやはり製造業は製造現場が一番強かったり、「ウデ」の世界では強面の荒くれものや頑固者(笑)もいらっしゃいます。
どちらかというとお調子もののわたしは、そんなコワい人たちとも結構うまく付き合えていた方だと思いますが、やはり駆け出しの技術者は経験も知識も少なく、「調子いいことばかりいう割には、かなり自分自身も苦労して、現場にも苦労と迷惑をかけて、それでもなんとか最終的にはギリギリオッケー」のようなことばかり続いており、というよりは、まあどちらかというとそれ一辺倒でした。
そんな仕事ぶりなものだから、まあ現場からも上司からも評価は低いという自己評価と、低い達成感のなか仕事をしているようなものでした。
それが何年も続いても、なんとか技術者として生き延びていましたところ、ある日、いつも通り途中でなんだかんだと最悪のトラブル続きの仕事を乗り越えて、予定よりも遅れながらも軌道に乗って、一同ホッとしたことがありました。その時にあるコワーい親方から言われたことが20年以上経っても忘れられませんし、アメリカに来てからたびたび思い出します。
「お前はいつも魅せる仕事をするから、今晩一杯やろう。ついてこい」
「(見せる仕事?なんじゃそりゃ?なんの説教だ???)」
わりと高級な料亭へついて、乾杯して飲んでいる間にさきほどの「見せる仕事」の意味を聞いてみたら、
「オマエな、仕事っていうのはな、はじめっから最後までうまくいくようなものはダメなんだよ。「魅せる仕事」っていうのはな、ちゃんとアントニオ猪木みたいに一本目は軽やかにフォール勝ちして、二本目は悪役に凶器でやられて頭が血だらけになり意識が飛んで負けて、三本目は大流血しながらも奇跡のフォール勝ち、みたいじゃないとな。いつも軽く二本取ってフォール勝ちするような無敵のレスラーだったら盛り上がらないし、誰も応援したりしないだろ?」
「・・・・・・それが魅せるってこと?」
「オマエもいつも二本目で血だらけになるからいいんだな(笑)わざとじゃないんだろーけどな、ガーハッハ!今日はオレのおごりだからいくらでも飲め!」
褒められているか、けなされているのか微妙だと思いましたが、わたしは単純に、ポジティブに捉え、とてもうれしくて酒もたくさん飲んだことを覚えています。七転び八起きもポジティブ諺ですよね。わたしの心情はいつも「七転八倒」でしたが(笑)。
で・・・これがなぜアメリカに来たあとによく思い出すいい経験(いい言葉)だったか、想像がつきますでしょうか?
そうです!アメリカ人は映画「ロッキー」みたいなストーリーが大好きな人たちですから、アントニオ猪木みたいな仕事をする(ワザとではないにしても)と、日本ではなれなかったような結構な人気者になれるのです(笑)。75点くらいの仕事を血だらけになりながら・・・最後は奇跡的に勝つ!みたいにであれば、あなたもアメリカで成功する素質があるといえます。
日本でもそのような仕事ぶりだったものですから、慣れない環境と言葉に毎日翻弄され大流血しながらも最後は仲間の米人とビールを飲んで祝勝会ができれば、もう雰囲気的に頭のなかにロッキーのテーマが流れてくるのは間違いありません。
実はこのはなしはアメリカ人の部下にもよくします。途中で失敗しても構わないし、最後までやり通せばいいだけだということを。三本目で魅せてくれと(笑)。
アントニオ猪木もロッキーも少し古かったですかね(笑)。若い人には分からないかもしれませんが、悪しからずご了承ください。