今となっては米国企業に勤め「駐在者」という立場から解放されていますが、10年ほどの日本企業の駐在者としての経験を生かして、その間にあった「面白いはなし」シリーズを展開したいと思います。時期としては、2000年代初頭までさかのぼりますから、今現在と事情は多少異なるかもしれません。しかし、PCやインターネット、携帯電話が劇的に世の中を変えた「後」ではありますので、今でもおおよそのところは変わっておらずご参考になるのではと思います。
適任と選ばれて海外赴任をすることは、多くの場合光栄なことですね。ただ、多くの日本企業の場合、海外派遣は100%会社の都合であるのに、テッパンの社則や海外赴任規則では個人の都合はほとんどの場合斟酌されません。社員を「社則の元、平等に扱う」というポイントがもっとも重要で、何でも規則通りに実施されたかが人事部、総務部の守るべき鉄則であります。
福利厚生規則の中で海外駐在者は、大きく「家族帯同」「単身赴任」「独身者」でクラス分けしていることが普通で、同じカテゴリーの中では絶対に差が出ないことが非常に重要です。彼らにとって「例外をつくる」ことほど罪悪なことはないのですね。不思議なことにカテゴリー間の不平等は、社員の間でもほとんど論じられません。素人では比較できないからでしょう。
このカテゴリー内で、会社からの扱われ方が少しも違わない「横並びであること」を、とても大事にしているのは、会社の中にいる数%のモンスター社員から、会社や他の従業員を守るため、と懇意にしていた人事部関係者に複数回聞いたことがあります。ケース・バイ・ケースでものごとを決めたことが「一度でも」あり、そのモンスター社員の知るところになると大変なことになる、との納得できるような、できないような・・・説明を受けたことが数回あります。
確かにわたしの事情を汲んでくれた担当者が、なにかしら特別な措置をしてくれた場合に、わたしがそれを口外しないという保証はありません。人事部からすれば、わたしがそのような親切な対応をしてくれたと感謝して他人に言うくらいなら、分からず屋の人事担当者だと悪口を言ってくれた方が業務上は助かるので、大手企業の人事部や総務部には「プロのお断りマシーン」が育成されます(笑)。
よく社則や赴任規則を読んでみると、本当はそんなに細かい事が書いていないにもかかわらず、今までの他の社員の扱いと同じにするということがどうも重要なようで、これらのために全社的なものよりも各海外法人でも「内規」を作っているようです。
赴任者が与えられる社用車ひとつとっても、ちょっとしたオプションの違いだけで人事部に怒鳴り込んでくる人がいるとのこと。これは私が経験した本当のはなしで、赴任当初与えられた決められた車種がたまたま年式が新しくなって、標準オプションで鍵にドアロック・オープナーが付属してきたのですが、人事担当者からは「他の日本人の前で使わないように」注意がありました(笑)。「大人の世界」を垣間見た気分になりました。
日本人駐在員間では、人数が限られるだけに日本人同時の比較がとてもやりやすくなります。福利厚生上何か少し違うと目に付くというのもありますし、駐在員が増えてくると、なんとなくグループが出来てしまったりします。3人くらいであれば仲良くするしかないのですけどね。
わたしも実際はそんなに細かいことを気にするタイプではありませんし、個人の都合は会社にとっては「知ったこっちゃない」という日本の常識も持ち合わせていました。実際には人事部もいろんな質問には一応熱心に耳を傾けてくれ誠実に対応してくれました(社則や内規の丁寧な説明での「お断り」がほとんどですが・・・)ので、会社や人事部を問題視しているわけではありません。わたしもいろいろと無理難題を要求していたわけではなく、海外赴任すると最初はシステムが分からないから担当者に尋ねる、という機会が増えるのです。
日本の会社は正社員として入社できたならば、よっぽどのことがない限り残りの人生を9割がた保障してくれるようなシステムを構築しているのだから、たいていの社員はそれに対する恩義もありなかなか文句も言えません(笑)。他の投稿でも書いたように、その副作用として「モンスター社員」とか「社内余剰人員」とか「ぬるま湯サラリーマン」を生んでしまうのですが、それはそれで・・・今までそれでうまくいってたんだから致し方ありません。
駐在中は誰しもが、良かれ悪しかれ日本の本社と現地の文化や現地法人との板ばさみや違いを感じ、特に先進国に駐在している場合はその微妙な違いに驚くことも少なくありません。「平等」とか「規則」という言葉そのものが陳腐に聞こえてくるような使われ方もします。
ということで、約10年間の間にあったそのような話で、なるべく「面白いもの」だけを紹介していきたいと思います。
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前置きが大変長くなりましたが、わたしの場合、アメリカへ赴任することが決まり、まず「ん?」となったのは、わたしは妻とバーニーズ・マウンテン・ドッグという大型犬一頭と賃貸マンションで生活しておりましたから、その犬をどうやってアメリカへ連れていくのか?が、まったく知らないところから始まります。
赴任が決まると、就労ビザの手続きや、社内手続き、転出届など、なんだかんだと3カ月くらいは準備期間がありますが、今回はその会社が費用などの面倒一切をみてくれる一般的な話は割愛し、わたしたちの最大の個人的な事情「どうやって大型犬をアメリカへ連れていけばいいのか」だけに絞って書きますと、
- アメリカでの検疫要求事項で、マイクロチップの埋め込みや狂犬病予防注射の証明書などを英語で書いてくれる獣医さんを探して2回ほど行かなければいけないらしい
- 飛行機に乗せるための、航空法で決められた品質のケージを購入しなければならないらしい。バーニーズは65キロほどあるので、最大クラスのケージ。
- 賃貸マンションなので、赴任日何日か前に荷物をすべてアメリカへ送り出してキレイにした後に、引き払わなくてはいけない。もちろん車も処分しなければならないが・・・
- そのあと、フライト日まで大型犬を連れてどこに泊まるのか?
- そもそも、大型犬を連れてどうやってそのホテルや空港に行くのか?
- 大型犬の国際線の運賃は???以前に猫一匹5万円と聞いたことがあった
- アメリカ到着後、アメリカ国内線にはケージが大きすぎて載せられないことが分かり、ハブ空港から7時間ほど車で移動しなければならない
といった疑問がボロボロと出てきます。割愛する一般的な手続きや引っ越し準備もこれはこれで結構大変ですから、それと並行していろいろ手配をしなければなりません。
金額的には結論から言うと、上記のもろもろの費用で40万円ほどかかったと思います。手提げケージに入るような小型犬や猫でなければ、日本は恐ろしく「ペット・アンフレンドリー」な国です。電車などの公共の交通機関には乗れてもらえないし、成田空港半径50キロ以内に大型犬と一緒に泊まれる宿泊施設は見つかりませんでした(当時)。
そのような中で「渡米」の模索が始まりました。